一般社団法人都市農福を推進する会様
現場のノウハウを情報(データ)として蓄積・活用する、データドリブン型農業経営を実現
「勘」から「データ」へ。
農業経営者の道しるべとなる「ベジパレット」
1~10ha
20名以上
九州・四国
平野部
施設栽培
果樹
導入プラン | ベジパレット スタンダードプラン |
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事業内容 | 就労移行支援、自立訓練(生活訓練) |
ウェブサイト | https://ethivege.com/ |
一般社団法人都市農福を推進する会(以下、同法人)では、農業を通じて働きづらさを感じている人が社会参画できる環境づくりを目指し、都市部でのエシカル(※2)な農業を推進しています。そこで、メンバーとともに運営する圃場における作業記録や圃場ごとの収支管理など営農活動に必要な情報管理を行う基盤として、農業経営を支援するクラウドサービス「ベジパレット」を採用しています。
課題
- 農福連携(※1)において、障がい者の就労支援だけでなく収支管理を含めた農業経営の取り組みを加速させる必要性
- 日々の貴重な農業経験の情報(データ)を活用するためには、それらを蓄積し分析するための環境整備が必要だった
解決策
- データドリブン型の農業経営の仕組みにより、新規就農でも農業経営者として認めてもらうための環境整備に貢献
- クラウドサービスとして利用可能な「ベジパレット」の活用により作業記録から収穫記録、出荷記録など各種情報を蓄積。農業経営者としての経験が少ないなかでも、「ベジパレット」が効率的な農業経営を実践するための道しるべとして期待(データ)を活用するためには、それらを蓄積し分析するための環境整備が必要だった
導入効果
営農に関する各種情報をデータとして記録していくことで、データドリブン型の農業経営が可能になる。また、ITを活用した報告業務をOJTで学ぶことや、一緒に働くメンバーとの情報共有と自身の仕事の成果を発信することも可能になり、「ITを活用したビジネスの報・連・相」ができるので、就労支援に役立つシステムとしても活用。
農業経営者として経験が少ないなかでも、「ベジパレット」が効率的な農業経営を実践するための道しるべとして役立っている。
農地が狭く分散した都市部での農福連携にチャレンジするべく法人を設立
同法人は、発達障がいや難病などさまざまな理由から働きづらさを感じている人が、農業分野で活躍することで社会参画を実現していく農福連携を実現するべく、2021年3月に設立されました。新型コロナウイルス感染症の影響で、多様性や環境問題、食料自給率向上などのキーワードが大きな話題となるなか、農業と福祉を組み合わせた農福連携についても注目されています。そんな食に関わる農業や福祉の分野に高い関心を持っていたのが、同法人を立ち上げた代表理事渡辺章子氏です。大手都市銀行で支店長を経験されるなどのキャリアを積み上げてきた渡辺氏が、退職をきっかけに農福連携の可能性に触れ、同法人を設立するに至りました。
一般的に農福連携の取り組みは、広大な農地がある地方では成功事例が数多く出てきています。一方、都市部では、まとまった農地を取得しづらく、狭く分散している現状があります。これらの狭く分散している農地を守りながら、働きづらさを抱える人たちの雇用を生み出すための環境づくりに挑戦しているのが、同法人の最大の特長です。「私の住む自宅の前にも小さな農地がありますが、銀行の支店長時代には生産緑地の期限を迎えた農地の宅地化が進む現状も目の当たりにしてきました。農地を心の拠りどころにしているお年寄りのためにも農地を守りながら、心や体に障がいを持った人に就労機会を通じて社会参画してもらえる環境づくりを、都市部で実践していくことを目指しています」と渡辺氏は説明します。
そんな同法人が、一人ひとりが持つ個性に合わせた個別のプログラムで、無理のない生活支援や職業訓練、就労支援、復職支援を行うべく開所したのが、エシカルベジタブルス八王子です。「農福連携を通して、就労困難な方々が新たな一歩を踏み出すための支援を目的に、エシカルベジタブルス八王子を開所しました」と渡辺氏は説明します。
特に倫理的であることを意味するエシカルを事業所名に取り入れているのは、どれだけ有機農法にこだわっても隣接する土地からの影響があるといった都市部ならではの事情も手伝って、「自分たちのできる範囲で地球環境によく、人々にもやさしいモノづくりを進めていくことから始めようという想いからです。紫や白の人参をはじめ、赤い大根やピンクのじゃがいもなど、想像するものとは違うカラフルな野菜ではあるものの、とても甘くて美味しい、料理に使うと映えるといったモノづくりを意識しています。一緒に働くメンバーだけでなく、育てている野菜も含めて多様性を積極的に取り入れています」と渡辺氏は力説します。
課題は収支管理を実現するための情報基盤
元銀行員である渡辺氏だけに、単なる就労支援だけにとどまらず、作付した圃場の収支管理を徹底させ、しっかりと収益をあげる仕組みづくりも意識しています。現状は2年目を迎えた段階のため、圃場ごとの収支管理までには至っていませんが、働くメンバーと一緒になって、圃場ごとの特性を把握しながらしっかりと収益をあげる仕組みづくりに取り組んでいます。
その環境づくりに欠かせない情報基盤には、従来は別のコミュニケーション・アプリを使って日々の作業報告を行ってきましたが、過去の情報をうまく蓄積して経験をデータとして積み上げていくような環境が整備できていませんでした。「確かに日々何を行ったのかの報告は可能ですが、例えば種代がいくらかかったのか、この圃場は昨年どんなことをしていたのかといった、過去の情報を振り返り活用することができず、同じ過ちを繰り返してしまう状況でした」と渡辺氏。
現状は、職員やメンバーなど含めて12名ほどが情報基盤として「ベジパレット」を活用しており、3つの圃場を中心に、テキストだけでなく写真も組み合わせながら作業記録を積み上げています。また、作業記録はもちろん、収穫記録や出荷記録なども含めて日々データを蓄積しており、記録に必要な圃場や作業者、機械といった各種情報だけでなく、メンバーが作業しやすいよう、1つの作業を細分化して作業項目をマスター化しています。「出荷前の調整作業で見てみると、例えば綺麗にそろえて計量し、袋に詰めて結束するといった一連の作業を1つのごととして見ることが一般的ですが、メンバーが作業しやすいように、作業を細分化してタスクをシンプルにします。マルチタスクが苦手なメンバーでも、やりやすいごとで作業ができるようになっています」と渡辺氏。
ベジパレットの情報基盤としての
可能性を高く評価
過去の経験をデータとして蓄積していきながら、事務所に在籍している発達障がいなどを持ったメンバーと情報共有する仕組みが求められていました。そんななか、農業関連のイベントで出会ったのが、ユニリタが提供する農業経営支援クラウドサービス「ベジパレット」でした。「一緒に働くメンバーとの情報共有と利用者自身からの情報発信が可能になり、日々の作業を記録して蓄積していくことができ、本来自分達がやりたいことが実現できると感じました。さらに、将来的には独自のマニュアルが予定から参照できるようになり、字を書くのが苦手なメンバーに対しては音声入力で情報が記録できる機能などが、今後のバージョンアップで対応予定であるという話をいただきました。実は、現場にカメラを設置して、農業指導者が分散した圃場の指導をリモートで実施できるような環境も整備したかった。ユニリタはUNIRITAみらいファームで既にカメラを設置して遠隔監視をしていることもあり、こちらが期待する情報基盤として今後拡張していける可能性を感じたのです」と渡辺氏は振り返ります。
実際に複数のクラウドサービスを検討したもののしっくりこない状況が続いたのですが、「ベジパレット」に出会い、このサービスは自分たちで報告し情報発信が行えるワクワク感をメンバーに感じてもらえるだけでなく、他のメンバーに見てもらうことで頑張ったことが共有できる、そんな理想的な環境を作ることができる情報基盤としての可能性を高く評価したのです。
また、ユニリタ自身が実証圃場「UNIRITAみらいファーム」を立ち上げ、実際の農業を経験しながらサービス開発している点も好感が持てたと言います。「自分たちで現場を経験しながらサービスを改良しているようで、我々の意見も取り入れていただきやすい。現場に適した仕組みが整備できると感じたのです」と渡辺氏。
結果として、農福連携に向けた情報基盤としてベジパレットを採用することになったのです。
農業経営者の道しるべになる「ベジパレット」
具体的な運用は、前週にメンバー含めて打ち合わせを行い、ベジパレットが持つカレンダーに予定を入力し、実際の作業日にはその実施作業を記録していきます。種や苗を購入した際にも経費として情報をベジパレットに記録するなど、将来的には原価計算も含めた収支管理に応用していきたいと語ります。「きちんと記録をしていくことで、例えば昨年はいつ播種したのか、播種後の追肥は何回実施したのかといった情報も把握できる。圃場や作付ごとにナレッジが蓄積でき、とても助かっています」と渡辺氏。
出荷管理については、生産者直販としてマルシェなどの店舗で販売するものやeコマース経由の販売など、リスク分散も考慮して複数の流通方法を確保しています。これらを「ベジパレット」の出荷記録をもとに、どの販路を経由すると収益を最大化することができるのかを検討する際に役立っています。「販路によっては高い金額で取引できるところもあれば、多少傷があってもまとめて購入いただけるところもあります。販路の特性や収益を意識しながら出荷先を検討する際にも、ベジパレットの出荷記録を参考にしています」。なお、情報がさらに蓄積されていくことで、ダッシュボードを使って圃場ごとや過年度との比較など農業経営に必要な情報を一目で確認できるような使い方をして行きたいと語ります。
蓄積されたデータを活用し、
データドリブン型の農業経営へ
ベジパレットで日々の作業記録をデータとして蓄積していくことで、データドリブン型の農業経営が実現できるプラットフォームは準備できたので、農業経営者として必要な数字の把握がしっかりできるようになると期待を寄せています。「まだ2年目のため、農業経営者として未熟な面が多々あります。それでも、農業アドバイザーの指示を仰ぎながらトライ&エラーを繰り返すことで、栽培品目の選択基準ができてきました。その精度を上げることができてきたのはデータを蓄積していける「ベジパレット」のおかげです。更に使いこなせれば、圃場ごとの収支を把握できるようになり、収支が悪化している圃場に対して作物選定から見直すなど、全ての圃場を黒字にしていくような活動にも大いに役立つはずです」と渡辺氏は期待します。
一般的な農家の場合、暗黙知としての経験値が多く、生き字引としての経験を息子などの後継者に継承していくことが可能です。「暗黙知がない我々にとって、それを積み上げていけるのが「ベジパレット」です。これから農業経営者として歩んでいくための良き道しるべとして「ベジパレット」が生かされていくはずです」と渡辺氏。きちんとしたデータに基づいた農業経営が実現できることで、設備投資や人材確保など農業に関わるさまざまな補助金申請を行う際にも、エビデンスとしてデータを生かせる場面があるはずだと渡辺氏は語ります。
ユニリタに対しては、カレンダーから作業マニュアルにアクセスできる環境づくりなどユーザーの声を製品に反映しようという姿勢はもちろん、安心して相談ができる導入支援や課題解決に前向きに取り組むなど、企業として高く評価しています。「会社として実際に農業を経験されているからこそ、出てくる情報に納得感があります。まるで同業者のような感覚でやらせていただけています」と渡辺氏は高く評価します。
チャット形式で選択肢を提示しての音声入力など
今後の拡張に期待
現状ではテキストによる各種情報の記録を行っていますが、文字入力が苦手なメンバーもいるため、いずれは音声入力が可能な環境を整えていきたいと語ります。ユニリタでは、音声による記録登録の検証を既に開始しており、声だけで営農日報が作成できるような環境も整備していけると期待しています。「メンバーの特性や実力に合わせていろいろな入力手段を今後も増やしていきたい」と渡辺氏。また、播種したタイミングで収穫予定がわかるような情報も現場に提供していきたいと意気込みます。
さらに、作業に必要な情報がシンプルに網羅されているマニュアルも「ベジパレット」の予定に保存し、必要に応じて現場からでもすぐに作業手順が確認できるような環境整備にも取り組んでいきたいと渡辺氏。他にも、圃場ごとに環境センサーを設置して気温や土の温度、pH値などの情報を自動的に収集、蓄積し、環境変化にも適用していける効率的な農業経営に向けた環境整備にも興味を持っているとのこと。カメラを使って収穫時期を画像識別したり、ARを活用して摘果時期を見定めたりと、農業とITのさらなる可能性と、「ベジパレット」を活用した未来の姿について熱く語っていただきました。
(1)農福連携
障がい者や高齢者などが農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組です。農福連携に取り組むことで、障がい者などの就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。
(2)エシカル
その物が作られるために必要な環境や、作っている人の労働環境、そして環境保全や社会へ配慮する、という意味で捉えられています。
一般社団法人都市農福を推進する会
事業内容:就労移行支援、自立訓練(生活訓練)
ウェブサイト:https://ethivege.com/