農業経営におけるデータの活用「農薬散布歴の活用」
前回に続いて農業経営における記録とデータの活用方法について検討します。活用方法の例を通して「農業経営における記録を取ること」の意義を考えます。
今回は、栽培現場におけるデータの活用例「農薬の散布歴」に着目します。
農業経営者にとって、病虫害との闘いは避けられません。1つの場所に同じ作物を集中させるため、特定の病害や虫害がどうしても発生しやすくなります。それらを防止する上で、近年ではさまざまな防除方法(生物農薬など)が広まっていますが、農薬散布による化学的防除は最も一般的な方法の1つです。
しかし、「農薬はできるだけ使いたくない」「使ってほしくない」と言うのが多くの農業経営者、消費者の心理だと思います。それを実現するにも、病害虫に薬剤抵抗性を付与させないための効果的なローテーション散布と、農薬の成分ごとの使用回数の遵守が求められます。
農薬散布の記録を活かして、以下のような活用が可能です。
- 使用した農薬をRACコードごと、薬剤成分ごとに分類することで、次に散布することが好ましくない(あるいは散布できない)農薬の判断が可能となる。
※「前回散布した農薬と同一のRACコード(同じ作用機構)になっていないか?」を確認の上、散布農薬を選定できる(薬剤抵抗性を付与させない効果的な防除)。
※同時に「成分が同じものを散布する時に、制限回数を超えないか?」を確認の上、選定できる。 - RACコードを活用した散布により、効果的なローテーション散布が実現し、散布回数を抑えることができる。
収集するデータについて
- 栽培履歴簿(生産履歴)に記録するデータ
- 薬剤散布の日付
- 薬剤の登録番号
- 使用した薬剤の名称
- 散布量
- 希釈倍率
- RACコードを用いた使用薬剤の分類
- 農薬の成分が同一のもの同士での分類・制限回数と使用回数
散布した農薬は、実施日と併せて対象とする病虫害を記録しておくと、翌年、同時期での発生目安(防除の時期)として活用可能です。
また、施設栽培においては、特定の波長の光を発する捕虫器などが、近年開発されており、薬剤散布の前後における害虫の発生数の程度を客観的に評価できるようになりました。これにより、散布した農薬の効果を評価することも可能です。
農薬は、病虫害から作物を守ると同時に使用の量や方法を遵守することで安心、安全な作物の栽培につながります。また、農薬の使用回数を抑えることができれば、経営上における経費の節減、薬剤散布の労力(人件費)の節減につながり、農業経営の収支の改善にもつながります。
私たちも実際に、「UNIRITAみらいファーム」でミニトマト栽培に取り組んでおり、コナジラミの駆除、病気の防除に試行錯誤しています。
間もなく寒い冬が到来し、ビニールハウスは締め切りで湿度が高く病気の発生しやすい環境になります。散布歴にRACコードと農薬成分を組み合わせた記録を活用して、効果的な防除を実践していきます。
執筆者情報
株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム
ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。
日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。