農業経営におけるデータの活用「生育調査の結果とその活用」
前回に続き、農業経営における記録とデータの活用方法について検討します。
活用の例を通して「農業経営において記録を取ること」の意義を考えます。今回は、栽培現場におけるデータの活用例「生育調査の結果とその活用」に着目します。
近年、特に施設園芸においては生育調査の重要性が認知されています。温度、湿度(飽差)、日射、水、CO2などの栽培環境を、農業経営者がコントロールすることで、収量の最大化に繋げることができるからです。
そのためには、作物の状態を正しく知ることが必要で、最良の栽培環境に調節するための最初の一歩になります。施設によっては、予め設定した温度でハウス内の換気をしたり、一定の日射量になると潅水したりするなどの環境調節を自動で行う装置の導入をしている施設も少なくないと思います。
一方、露地栽培においても、播種後(または定植後)○日における作物の本葉の数や草丈を記録しておくことで、前年同時期と比べて生育が順調か、そうでないかを知る手掛かりとして活用できます。(播種または定植後の一定期間経過後の積算温度も、その年が寒いのか、暖かいのかなどの気候条件による生育の違いを把握する目安としても活用可能です。)
生育調査で取得するデータから分かること
施設園芸(果菜類):
- 作物における栄養成長、生殖成長の強さの程度を理解する目安にできる。
- その結果、どちらの成長を促す必要があるのか、農業経営者が判断できる。
- 栄養成長を助長する作業(潅水量の増加・潅水のECを低くする等)や、生殖成長を助長する作業(摘葉・脇芽の除去等)を選択して実施することで、促したい成長に寄せることができる。
露地栽培(葉茎菜類):
- 前年の同時期と比較して、生育が順調かどうかの判断指標になる。
- また、積算温度を取得すると、その年の気候の寒暖の違いが分かり、収穫までの所要日数の長期化・短期化の予測に役立つ。
生育調査で収集するデータ
果菜類
- 栄養成長・生殖成長の強さに関係する作物の体長データ
- 樹勢の強さ・弱さに関係する作物の体長データ
Ex. トマト 茎の太さ、成長点から第一花房の長さ、一定期間での伸長量 - 累計収量(環境調節した結果、良かったのか?悪かったのか?判定する)
※生育調査を繰り返して、都度、栽培環境を最適化することが重要です。
一定期間後に作物の体長データを再測定し作物の状態把握→環境調節を繰り返す。
葉茎菜類
- 播種(定植)後、一定期間経過後の葉の枚数(何枚の本葉があるか?)
- 一定期間経過後の草丈の大きさ
- 積算温度(播種・定植後、生育調査を行う日までの一定期間における)
- 収穫までの所要日数
- 累計収量
生育調査による作物の成長の客観的評価と栽培環境の最適化は、安定的に収量を維持し、売上を最大化する一歩になります。
近年、異常気象とも言うべき極端な気候が日常的になりつつある中で、安定的に栽培することは、農業経営者にとっても簡単なことではありません。
記録データを蓄積して、環境改善や作付時期の見直しなどの仮説・検証の繰り返し行う際に、ITの活用が有力な手段になります。その活用次第で、農業経営における収入の安定化と収支改善に繋がるはずです。
農業にITを組み合わせて、データの蓄積と活用が効率的に実施できるよう、これからも取り組んで参ります。私たちは、「農業×IT」で農業に関わる皆さまのお役に立てるよう努力して参ります。
執筆者情報
株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム
ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。
日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。