トマトの高温障害とは?栽培を成功させるための予防策と対策
トマト栽培において「高温障害」は避けて通れない課題です。特に夏場の気温が上昇する日本の気候では、適切な管理を行わないとトマトの収穫量や品質に大きな影響を与える可能性があります。
高温障害とは、作物が高温環境にさらされることで発生する生育不良や障害の総称であり、新規就農者や栽培経験の浅い農家にとっては深刻な問題となることが少なくありません。近年では、地球温暖化の影響もあり、この問題への関心がますます高まっています。
この記事では、「トマトの高温障害とは何か」を詳しく解説するとともに、栽培を成功させるための予防策や対策方法についてご紹介します。
トマトの高温障害とは
高温障害とは、作物が高温環境下で成長する際に生じる、生理的異常や生育障害を指します。トマト栽培においては、高温環境が長く続くと、花や果実の生育段階に悪影響を及ぼします。高温障害の原因は複合的で、温度だけでなく、湿度や水分管理の失敗、日射量の増加などが影響します。特に日本の夏季のように湿度が高い環境では発生率が高まります。
トマトの高温障害の主な症状
トマト栽培で確認される高温障害の主な症状には以下があります
花落ち・受粉不良
気温が35℃を超えると花粉が正常に形成されず、受粉が成功しなくなります。その結果、花が落ちたり、奇形が形成されたりするなど、受粉率の低下と受粉品質の低下が目立ちます。
果実の肥大不良
夜間になっても気温の下がりにくい夏季では、活発な呼吸に伴って、成長点や葉・茎の成長が鈍化するばかりか、果実の成長も停滞しサイズが小さいまま収穫を迎えてしまいます。これにより、収量が大幅に減少します。
着色障害
果実が成熟しても均一に赤くならず、白や黄色の部分が残る「まだら着色」が見られることがあります。その結果、商品価値を損ないます。
尻腐れ症
水分不足によって、土壌中の養分濃度が濃くなり、浸透圧が高まると、植物は養分や水分を吸収しにくくなります。その結果、カルシウムが吸収されにくくなって欠乏状態となり、果実の先端部分が黒く腐る症状が現れます。高温環境では土壌の水分不足や蒸散量の増加により、カルシウムの移動が阻害されやすくなります。
高温障害が発生しやすい条件
高温障害が発生する主な条件として、以下の3つが挙げられます。
高温多湿の環境
特に日中の気温が35℃を超える日が続くと、高温障害のリスクが急激に高まります。また、夜間に気温が25℃以上の場合、トマトの呼吸が活発化し、生育に必要なエネルギーが消耗されて、成長が滞ります。
換気不足
ハウス内栽培での換気不足は、気温上昇だけでなく湿度の上昇も引き起こします。これにより病害虫の発生も増加し、トマトの健康状態がさらに悪化します。
灌水(かんすい)や肥料管理の不適切さ
高温時に適切な水分が供給されないと、植物がストレスを受けやすくなります。また、肥料の過剰施肥による土壌中の養分濃度(浸透圧)や、肥料不足による養分の欠乏もトマトに負担を与えます。
トマトの高温障害の原因
気温と日射量の関係
トマトは15〜30℃の気温が最適とされていますが、それ以上の気温が続くと生育が著しく悪化します。特に強い日射が続く夏季には果実や葉の温度が40℃近くまで上昇することもあり、この環境下では細胞がダメージを受けやすくなります。また、地温が上がりすぎると根が正常に機能しなくなるため、水分や栄養分の吸収効率が低下します。
水分管理が招く問題
高温時には蒸散量が増加するため、植物は通常以上に多くの水分を必要とします。水分が不足すると水ストレスが発生し、果実の肥大不良や着色障害が起こります。一方で、水やりを過剰に行うと根腐れを招き、病気が発生しやすくなるため、適切な管理が必要です。
栄養バランスの崩れ
高温環境では、カルシウムやカリウムの吸収が阻害されやすくなります。これにより、尻腐れ症や果実の裂果(果実が裂ける症状)が起こることがあります。肥料成分のバランスが崩れることで、トマト全体の健康が損なわれるため、注意が必要です。
トマトの高温障害を防ぐための予防策
ハウス内の温度管理のポイント
ハウス内の温度を適切に保つことが高温障害を防ぐ第一歩です。以下の方法が効果的です。
遮光資材を活用した日射量調整
遮光ネットや遮光カーテンを使用することで、果実温度の上昇を抑えます。遮光率が高すぎると光合成に悪影響を及ぼすため、適切な透光率の資材を選ぶことが大切です。50%程度の遮光率を持つネットを使用することで、果実への直射日光を減らし、高温障害のリスクを軽減します。また、シェードネットは通気性の良い素材を選ぶことで、熱がこもりにくくなります。同じく遮光資材では、ビニールハウスの外側に遮熱塗料を散布する方法も効果的です。
適切な水やりと土壌管理
高温時には頻繁な水やりが必要ですが、与えすぎると根が酸素不足に陥ります。特に、水やりのタイミングを朝や夕方の涼しい時間帯に調整することで、水分蒸発を最小限に抑えつつ根の吸収を効率化できます。土壌水分や日射量に連動した潅水が可能な潅水システムの利用は、水分不足による水ストレスの緩和に役立ちます。また、マルチング(地面を覆う資材を使用する手法)を活用することで、土壌の乾燥を防ぎます。
トマトの高温障害への具体的な対策
換気システムとヒートポンプ
ビニールハウスでは、栽培環境のモニタリングシステムと連動した換気を設置することで、ハウス内の気温が常時確認できる上、ハウス外に効率的に熱気を排出することが可能です。特に、ハウス上部の熱だまりを外に排出する無電力換気扇や、ハウス内部に外気を強制的に送り込む有圧換気扇の利用は、ハウス内の温度を下げる上で有効です。
また、ヒートポンプを利用してのハウス内の温度維持も効果的です。ただし、気温が上昇する日中での利用は経済的とは言えません。ヒートポンプの利用は、夜温を下げるのに用いるのが良いでしょう。一方、近年では、気化熱を利用した細霧冷房(ミスト)設備も開発されております。特殊なノズルによって細かい粒に噴霧された水が気化熱で温度を下げる技術も有用です。
ホルモン処理の活用
ビニールハウス内で用いられるマルハナバチは、受粉にかかる手間を削減できますが、高温環境では活動量が落ちてしまいます。高温環境では、そもそもトマト自体の花粉の品質が落ちて受粉率が低下してしまうため、植物ホルモンを利用した人工的な着果処理が役立ちます。トマトトーンだけでも効果が見込めますが、ジベレリン系のホルモン剤との組み合わせによって、受粉不良による花落ちを軽減することができます。ただし、過剰使用は果実の奇形を引き起こす可能性があるため、使用方法を守ることが重要です。
高温期に対応する肥料の選び方
カルシウムやカリウムを重点的に補給できる肥料を選ぶことが重要です。葉面散布用のカルシウム溶液を使用することで、果実の尻腐れ症を防ぎ、健康な果実の成長を促進します。また、リン酸を含む肥料を使用すると、トマトの根の発育が促進され、吸水能力が向上します。
まとめ
トマトの高温障害の予防と対策には、温度や湿度、栄養管理の徹底が必要不可欠です。取り組みやすい対策から始め、経験を積みながらより高度な技術を取り入れていきましょう。気候変動の影響で高温障害の増加が予想される未来においては、持続可能な栽培技術と気候変動への具体的な対応が求められます。
執筆者情報
株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム
ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。
日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。