【食料システム法と適正な価格形成(第5回)】「お願い」から「対等な協議」へ ~コストエビデンスを活用した価格交渉の実践術~

【食料システム法と適正な価格形成(第5回)】「お願い」から「対等な協議」へ ~コストエビデンスを活用した価格交渉の実践術~

このコラムも折り返し地点の第5回を迎えました。

第1回で「食料システム法」が適正な価格形成を後押しする「追い風」であることを確認し、第2回第3回で「どんぶり勘定」から脱却し「収支を可視化(=コスト把握)」する必要性を説きました。

そして前回(第4回)では、その可視化されたコスト(=データ)こそが、「コストエビデンス(費用の証拠)」という最強の武器であり、それを準備することこそが法律の求める「努力義務」である、と結論付けました。

しかし、どれほど強力な武器も、倉庫に眠らせていては(あるいは、持っていても使い方を知らなければ)何の役にも立ちません。

今回は、その準備した「武器」を、いかにして実践で使うか。

すなわち、皆様の経営に最も直結する「買い手との価格協議(価格交渉)」の場で、いかに「コストエビデンス」を提示し、「努力義務」を果たし、旧態依然の「お願い」から「対等な協議」へと商談のステージを引き上げるか、その具体的な実践術について解説します。

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なぜ、これまでの「価格交渉」はうまくいかなかったのか

皆様も、これまで何度も取引先(卸売り、スーパー、加工業者など)に「値上げ」を切り出し、そして悔しい思いをしてきた経験があるのではないでしょうか。

<従来の交渉(=お願い)>


生産者: 「社長、ご存じの通り、最近の燃料高・肥料高で、うちも本当に苦しいんです。とてもじゃないが、今の価格ではやっていけない。どうか、お願いです。次の契約から、なんとか1割、価格を上げてもらえませんか?」

買い手: 「いやあ、お気持ちは痛いほど分かります。ですが、苦しいのはうちも同じでして…。これ以上仕入れ値を上げたら、今度は消費者が買ってくれません。他(の産地)も、今の価格で皆さん頑張ってますよ。申し訳ないけど、今期は据え置きでお願いします」


…これでは「交渉」とは呼べません。

これは「苦しい」という感情を訴える「お願い」です。

買い手からすれば、「苦しい」という主観的な感情に対しては、「うちも苦しい」という感情で返すしかありません。そして、何の客観的な根拠も示されない「1割」という数字には、「他も頑張っている」という言葉で拒否するしかありません。

これでは、立場の弱い生産者が泣き寝入りする、従来の構造から一歩も出られません。

「努力義務」とは、「説明責任」を果たすこと

第4回で述べた「努力義務」とは、「苦しい」と訴えることではありません。

「なぜ、この価格でなければならないのか」を、客観的なデータ(コストエビデンス)をもって論理的に説明する「説明責任」を果たすことです。

「食料システム法」は、生産者に「説明責任を果たす」という努力義務を与え、同時に、買い手にも「その説明(=合理的費用)を考慮する」という義務を課しました。

この法律を「盾」に、生産者が提示する「武器(コストエビデンス)」によって、商談のテーブルは「お願い」の場から「対等なビジネス協議」の場へと変わるのです。

コストエビデンスを使った「価格協議」の実践術

では、具体的に「コストエビデンス」をどう使えばよいのでしょうか。

重要なのは、「感情」を「勘定(データ)」で裏打ちすることです。

<新しい協議(=ビジネス交渉)>


生産者: 「〇〇様(買い手)、いつもありがとうございます。本日は、来期の契約価格について、ご相談とご説明がありお時間をいただきました。先に、こちらの資料をご覧ください」

(ここで『コストエビデンス(品目別・取引先別の原価計算書など)』を提示)

  • 資料例:品目A(ほうれん草) 1ケースあたり原価計算書(前期比較)

買い手: 「ほう、これは…詳細なコスト分析データですね」

生産者: 「はい。当社の経営努力も続けておりますが、ご承知の通り、外部環境が大きく変動しています。具体的には、肥料代が前期比〇〇%、包装資材費が〇〇%、そして最低賃金上昇に伴うパート人件費が〇〇%上昇しました。

その結果、〇〇様に納品しているこのほうれん草1ケースあたりの生産コストが、昨年のXX円から、今期はYY円へと、〇〇円増加しているのが客観的な事実です」

買い手: 「なるほど…。これだけ明確な数字を見せられると、状況はよく分かりました。しかし、弊社もこのコスト増をすべて飲むのは、正直申し上げて厳しい…」

生産者: 「お察しいたします。私たちが本日ご相談したいのは、まさにその点です。

この『増加した合理的費用(〇〇円)』を、どのように双方で分かち合っていくか、持続可能な取引のための協議をさせていただきたいのです。

先般の『食料システム法』でも、生産コストを考慮した価格形成が、業界全体の持続性のために必要だとされています。

当社としては、〇〇様(買い手)に今後も品質の良いほうれん草を『持続的かつ安定的』にお届けし続けたい。そのためには、このコスト増を反映した価格(ZZ円)でのお取引が不可欠なのです。

これが、当社の『努力義務』としてのご説明です。ぜひ、前向きにご検討いただけませんでしょうか」

「対等な協議」が未来を拓く

いかがでしょうか。

この「新しい協議」のポイントは3つです。

  1. 「お願い」をしていない:
    「苦しい」という感情論ではなく、「コストが〇〇円増加した」という客観的なデータ(コストエビデンス)を提示し、「説明責任」を果たしている。
  2. 法律を「盾」にしている:
    「食料システム法」という国が定めたルールを背景に、「個人的な値上げ要求」ではなく、「業界全体の持続可能性のための協議」という土俵に上げている。
  3. 買い手のメリット(リスク回避)に訴えている:
    「値上げしてくれないと困る」ではなく、「この価格でなければ、御社への安定的・持続的な供給が困難になる」という、買い手側の調達リスク回避の視点を提供している。

もちろん、一度の協議ですべての要求が通るわけではないかもしれません。

しかし、「コストエビデンス」というデータが交渉を助け、「どんぶり勘定」では不可能だった「論理的な対話」を可能にします。

「いくらなら買ってくれるか」という価格決定権を買い手に委ねる時代は終わりました。

「いくらでなければ持続的に供給できないか」をデータで示し、対等に協議する。

それこそが、食料システム法が私たち法人経営者に求める、真の「努力義務」の実践なのです。

さて、ここまで「コストエビデンスが武器だ」と繰り返してきましたが、

「言うはやすし。そんなデータ、どうやって作るんだ」

という声が聞こえてきそうです。


次回(第6回)は、いよいよ核心に迫ります。

この「コストエビデンス」を具体的に作成するための、「コスト把握の具体的な手段と方法」について、実践的に解説していきます。

執筆者情報

株式会社ユニリタ アグリビジネスチーム

株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム

ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。

日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。

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