【食料システム法と適正な価格形成(第6回)】あなたの野菜、本当の原価は? ~実践!「見える化」するコスト把握術~

【食料システム法と適正な価格形成(第6回)】あなたの野菜、本当の原価は? ~実践!「見える化」するコスト把握術~

このコラムでは一貫して、「食料システム法」という追い風を活かし、適正な価格転嫁を実現するために、「コストエビデンス(費用の証拠)」が不可欠な武器であると強調してきました。

第5回では、その武器を手に、買い手と「対等な価格協議」を行う実践術もご紹介しました。

その一方で、多くの経営者の皆さまはこう感じておられるはずです。

「武器が重要なのは分かった。しかし、その肝心の『コスト把握』が、言うほど簡単ではない」

「多品目・多圃場で、どこにどれだけコストがかかったか、正確に計算するなんて不可能だ」

まさに、その通りです。

農業経営におけるコスト把握は、製造業などと比べて格段に難しい側面があります。だからこそ、第2回で述べた「どんぶり勘定」に陥りやすいのです。

そこで第6回は、このシリーズの核心であり、皆様が最も知りたいであろう「具体的なコスト把握の手段と方法」について、生産者の実態に即して、実践的に解説していきます。「収支の可視化」は、決して不可能ではありません。

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なぜ、農業の「コスト把握」は難しいのか?

まず、難しさの正体を共有しましょう。

  • 多品目: A圃場のトマトとB圃場のほうれん草で、作業も資材も時間もバラバラ。
  • 多圃場: 同じトマトを栽培していても、複数の圃場で収穫時期が重ならないように栽培している。
  • 多岐にわたる業務: 社長や正社員が、午前はA品目の管理、午後はB品目の収穫、夕方は機械の整備と、複数の作業を兼務している。
  • 天候の影響: 長雨対策の追加防除、猛暑対策の灌水など、突発的なコストが発生する。
  • リードタイム: 資材投入(春)から売り上げ(夏・秋)までにタイムラグがある。

これらすべてを正確に把握しようとすると、確かに「無理だ」と感じてしまいます。

しかし、交渉の武器を作るために、最初から1円単位の完璧なデータを目指す必要はありません。

重要なのは、「まずは『記録』をとり、大まかに『可視化』すること」。

そのためのシンプルな「手段」と「方法」をご紹介します。

コスト把握の「方法」:まずは2つに「分解」する

「コスト把握」とは、会社全体でかかった経費(=決算書の費用)を、「どの品目(あるいはどの圃場)のために使われたのか」を基準に、パズルのように仕分けしていく作業です。

その仕分けの第一歩が、費用を「変動費」「固定費」の2種類に分解することです。

1. 変動費:作れば作るほどかかる費用

その品目を作らなければ「ゼロ」になる、あるいは生産量に比例して増減するコストです。

  • 例: 種苗費、肥料代、農薬代、パート人件費(収穫・調整作業など)、包装資材費、ダンボール代など。
  • 把握の方法: これらは、「どの品目に使ったか」が比較的明確です。「A品目(トマト)の種」「B品目(ほうれん草)の袋」のように、伝票や作業日誌からひも付けやすいのが特徴です。
  • ポイント: まずは、この変動費だけでも品目別に集計してみましょう。これだけでも「売り上げ」から「変動費」を引いた「限界利益(もうけの素)」が分かり、どの品目が効率的に稼いでいるかが見えてきます。

2. 固定費:作っても作らなくてもかかる費用

生産量に関わらず、経営を維持するために毎月・毎年、固定的に発生するコストです。

  • 例: 正社員給与(役員報酬を含む)、地代家賃、減価償却費(トラクター、ハウス、選別機など)、機械のリース料、事務所の光熱費など。
  • 把握の方法: これこそが「どんぶり勘定」の元凶です。これらのコストは「会社全体」にかかるため、品目別に分けるのが難しいのです。
  • ポイント(最重要): ここで「按分(あんぶん)」という考え方を使います。
    例えば、会社全体の固定費が年間1,000万円かかっていたとします。
    A品目(トマト)とB品目(ほうれん草)を、作付面積「50a : 50a」で作っていたなら、まずはシンプルに固定費も「500万円 : 500万円」と、面積比で按分してみましょう。
    もし、A品目の方が圧倒的に手間(労働時間)がかかると分かっているなら、「労働時間比(例:70% : 30%)」で「700万円 : 300万円」と配分する方が、より実態に近くなります。さらに少しでも正確に把握するためには、極力、かかった品目ごとに整理をし、分配をすることがポイントです。

コスト把握の「手段」:最大のカギは「労務費」の記録

上記のようにコストを分解・按分するために、絶対に不可欠な「データ」があります。

それが「作業時間(労務費)」の記録です。

第2回で「見えないコスト」として減価償却費を挙げましたが、法人経営において最大のブラックボックスは、多くの場合「人件費(労務費)」です。

どの品目(圃場)に、誰が何時間かかったのか? これが不明なままでは、正確なコスト把握は不可能です。

【具体的なコストの把握の例:労務費】

  • 悪い例(どんぶり勘定): 会社全体の「人件費」として、まとめて計上。
  • 良い例(可視化の第一歩):
    • 生産日誌(作業日報)を必ず書く(または入力する)。
    • 「誰が」「いつ」「どの圃場で」「どの品目の」「何の作業を」「何時間」行ったかを、毎日記録する。
    • (例)「Aさん」「11月14日」「第1ハウス(A品目)」「トマト収穫」「4時間」
    • (例)「Bさん(社長)」「11月14日」「第2圃場(B品目)」「ほうれん草播種」「2時間」

この日々の「記録」の積み重ね(=データ化)こそが、

「A品目には、月間で合計〇〇時間かかった」

「B品目には、月間で合計〇〇時間かかった」

という「労働時間比」を算出する唯一の「コスト把握手段」となります。

この「労働時間のデータ」さえあれば、先ほどの「固定費」の按分精度が劇的に上がり、より正確な「品目別コスト」が可視化できるのです。

何から始めるか?(コスト把握のツール)

「日報が重要なのは分かった。でも、どうやって?」

手段(ツール)は、今できることからで構いません。

  • レベル1:紙とエクセル
    一番手軽な方法です。現場では紙の日報に記録し、事務所で経営者(または事務員)が月に一度エクセル(Excel)に入力し、集計する。
    最初はこれでも十分、経営の「健康診断」は可能です。
  • レベル2:農業会計ソフト・営農支援システム
    現在は、スマートフォンで作業時間や資材を簡単に記録・データ化できる安価なアプリやソフトが多数あります。(詳細は第9回で触れます)
    これらを使えば、集計作業(データ化)が自動化され、リアルタイムで品目ごと(または圃場ごと)の労働時間が可視化できます。

完璧なシステム導入を目指すより、まずは「毎日、作業時間を記録する」という習慣(ルール)を社内で作ること。

それが、「どんぶり勘定」から脱却し、「コストエビデンス」という武器を手に入れるための、最も確実な一歩です。


次回(第7回)は、こうして手に入れた「コストエビデンス」を、どうやって「買い手」や、その先にいる「消費者」の理解につなげていくか。「三方よし」の関係構築について解説します。

執筆者情報

株式会社ユニリタ アグリビジネスチーム

株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム

ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。

日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。

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