【食料システム法と適正な価格形成(第8回)】次の一手を打つ ~コスト把握の先にある「付加価値」の創り方~

【食料システム法と適正な価格形成(第8回)】次の一手を打つ ~コスト把握の先にある「付加価値」の創り方~

前回(第7回)は、「コストエビデンス」を単なる交渉の武器として強引に合意をせまるのではなく、「買い手の理解」と「消費者理解」を得て、「三方よし(売り手・買い手・世間よし)」の関係を築くことの重要性についてお話ししました。

「合理的費用」を適正に価格転嫁することは、法律(食料システム法)が後押しする、生産者の正当な権利(であり努力義務)です。

しかし、ここで一つの事実に立ち返る必要があります。

生産者が求めている「コスト転嫁」は、あくまで「かかった費用(マイナス)」を価格に乗せ、経営を「ゼロ(±0)」の状態に戻すための「守り」の経営行動です。

もちろん、赤字(マイナス)をゼロに戻すことは、経営の存続にとって最重要課題です。

ですが、皆様が目指す「持続可能な(=もうかる)経営」は、単にマイナスをゼロに戻すだけでは達成できません。ゼロから「プラス(=利益)」を能動的に生み出していく「攻め」の経営行動が不可欠です。

その「攻め」の戦略こそが、今回のテーマである「付加価値創出」です。

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なぜ今、「付加価値」の創出が必要なのか?

「コスト転嫁もままならないのに、付加価値なんて」と思われるかもしれません。

しかし、実はこの二つは、密接に連動しています。

必要性 (1):安さからの脱却と「価格決定力」

「コストエビデンス」に基づく価格交渉は、「原価が上がったから、これだけ下さい」という交渉です。これは、価格の下限を守る戦いです。

一方、「付加価値」に基づく価格交渉は、「この野菜にはこれだけの価値があるから、この価格で買ってください」という交渉です。これは、価格の上限を引き上げる戦いです。

周囲の産地が「安さ」で競争している(あるいはコスト転嫁できずに苦しんでいる)中で、「高くても選ばれる理由」=「付加価値」を持つこと。それこそが、買い手や市場に価格を左右される立場から脱却し、自ら「価格決定力」を持つための唯一の道です。

必要性 (2): 買い手(パートナー)の「売りやすさ」を作る

第7回で、買い手は「消費者が買ってくれない」ことを最も恐れる、というジレンマに触れました。

単なる「コスト増による値上げ」は、買い手にとって最も売りにくい(=消費者に説明しにくい)商品です。

しかし、そこに明確な「付加価値」があればどうでしょう。

「確かに高い。でも、これはJGAP認証取得で安全が担保されているから」

「これは〇〇農園の特別栽培で、糖度が格段に違うから」

「付加価値」とは、買い手(バイヤー)が、その先の消費者や上層部を「説得」するための強力な武器となるのです。私たちの「攻め」の戦略が、パートナーである買い手の「守り」をも助けることになります。

コスト把握が「付加価値戦略」の土台となる

ここで、本コラムの最終ゴールである「コスト把握(記録・データ化)」に話を戻します。

「付加価値戦略」は、「コスト把握」と無関係な飛び道具ではありません。むしろ、「コスト把握」という土台(データ)があって初めて、効果的な「付加価値戦略」を立案できるのです。

どういうことでしょうか。

第6回で解説した「コスト把握術」を実践し、自社の「収支の可視化」が進んだとします。

そのデータを見て、経営者である皆様は、第2回で触れた「どんぶり勘定のわな」に気づくはずです。

<コスト把握(データ化)による「気づき」>

  • A品目(トマト):手間はかかるが、単価も良く、しっかり「黒字」。
  • B品目(ほうれん草):回転は速いが、洗浄・調整のパート人件費が想定以上にかさみ、実は「赤字」。
  • C品目(にんじん):資材費は安いが、市場価格の変動が激しく、利益が「不安定」。

この「可視化されたデータ」を見て、皆様はどういう「経営判断(=戦略)」を下すでしょうか。

赤字のB品目(ほうれん草)に対し、

戦略1: 第5回で学んだ「コストエビデンス」を提示し、買い手に価格転嫁の交渉をする。(守り)

戦略2: 作業工程を見直し、コスト削減(DX化など)を図る。(守り)

そして、第三の選択肢。

戦略3(攻め): 「このままではもうからないB品目(ほうれん草)に、新たな付加価値をつけ、赤字を脱却し『利益の柱』に変える」

「コストを把握する方法」を知ったからこそ、「どこが自社の弱点(コスト高・低利益)か」がデータで分かり、「どこに(どの品目に)付加価値戦略を投入すべきか」という、勘や経験だけに頼らない論理的な経営判断が可能になるのです。

コスト把握こそが、ずべての新戦略を生むのです。

「付加価値」の創出方法と具体例

では、「付加価値」とは具体的に何でしょうか。

それは、顧客(買い手・消費者)が「(他より高くても)お金を払ってでも欲しい」と感じる「価値」のことです。生産者が取り組める「付加価値の例」をいくつかご紹介します。

例1:品質(本源的価値)の追求

最も基本的かつ強力な付加価値です。

  • 例: 「糖度〇度以上保証」「特定の栄養価(リコピン、GABAなど)が高い」「エグみが少なく、生でも食べられる」
  • 創出方法: 品種選定、栽培技術(土壌分析、環境制御など)の研さん、収穫タイミングの厳格化。

例2:安全・安心・環境配慮(認証価値)

「見えない価値」を「見える化」する付加価値です。

  • 例: 「GAP認証(JGAP等)」「有機JAS」「特別栽培(減農薬・減化学肥料)」「エコファーマー」
  • 創出方法: 生産プロセスの厳格な管理と、その「記録」(=ゴール関連)。第三者による「お墨付き」を得ることで、特に大手スーパーや輸出において絶大な信頼(価値)となります。

例3:利便性(加工・パッケージ価値)

消費者の「面倒くさい」「使いきれない」を解消する付加価値です。

  • 例: 「カット野菜(サラダ用、加熱用)」「洗浄済み(洗わずに使える)」「少量パッケージ(単身・核家族向け)」「調理キット(ミールキット)」
  • 創出方法: 6次産業化への展開。自社での加工が難しくても、パッケージ方法の工夫(例:レンジでそのまま加熱できる袋)などで対応可能です。

例4:ストーリー(ブランド価値)

機能ではなく「情緒」に訴えかける付加価値です。

  • 例: 「〇〇(生産者)が、こういう想いで作りました」「地域の伝統農法を守っています」「〇〇(堆肥など)を活用した循環型農業を実践しています」
  • 創出方法: SNSでの積極的な情報発信、パッケージデザインの工夫、産直イベントでの対面販売など。

食料システム法が求める「コスト転嫁」は、マイナスをゼロに戻す「守り」の一手です。

それと同時に、自社の「コスト把握」データに基づき、「付加価値」という「攻め」の一手を打つ。

この「守り(コスト把握と転嫁)」と「攻め(付加価値創出)」の両輪を回すことこそが、安さの競争から脱却し、真の「持続可能な(=もうかる)経営」を実現する道なのです。

しかし、この「守り」も「攻め」も、すべては「記録」と「データ化」という土台の上になりたっています。


次回(最終回)は、この最も重要な「記録」と「データ化」をいかに効率的に行うか。「農業DX」をテーマに、データ活用による未来と、「何から始める」べきかについて、総まとめを行います。

執筆者情報

株式会社ユニリタ アグリビジネスチーム

株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム

ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。

日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。

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