【食料システム法と適正な価格形成(最終回・第9回)】「記録」が経営を変える ~DXの第一歩とデータ活用による未来~

【食料システム法と適正な価格形成(最終回・第9回)】「記録」が経営を変える ~DXの第一歩とデータ活用による未来~

全9回にわたってお届けしてきた本コラムも、いよいよ最終回を迎えました。

この連載では一貫して、「食料システム法」という新たな「追い風」を背景に、生産者が「持続可能な(=もうかる)経営」を実現するための道筋を探ってきました。

第1回第2回第3回で、「どんぶり勘定」の危険性と、経営の精密検査としての「収支の可視化=コスト把握」の必要性を確認しました。

第4回第5回では、その把握したコスト(=データ)を「コストエビデンス」という武器に変え、買い手と「対等な価格協議」を行う実践術を学びました。

第6回では、その武器の製造方法、すなわち「労務費」などの具体的なコスト把握手段を掘り下げました。

そして第7回第8回では、コスト転嫁という「守り」だけでなく、「三方よし」の理解を得ながら「付加価値」を創出する「攻め」の戦略、そしてその土台にも「コスト把握」が不可欠であることを論じてきました。

結論は一貫しています。

「守り(コスト転嫁)」においても「攻め(付加価値戦略)」においても、そのすべての土台となるのが、本コラムの最終ゴールである「記録をとり、データ化し、収支を可視化し、コストを把握すること」なのです。

しかし、皆様が最も強く感じておられるであろう、最大の「壁」が最後に残っています。

「理論は分かった。だが、その『記録』と『データ化』が、一番面倒なんだ」

最終回となる第9回は、この最大の壁を乗り越えるための強力な武器、「農業DX」について、そして「データ活用による未来」と、「何から始める」べきかについて、総まとめとしてお話しします。

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なぜ「紙とエクセル」では続かないのか

第6回で、「まずは紙の日報とエクセル(Excel)から」という手段(ツール)をご紹介しました。

しかし、現実の法人経営の現場ではどうでしょうか。

  • 「現場のスタッフが、忙しい中で詳細な作業日報(紙)を書いてくれない」
  • 「書いてくれたとしても、事務所でそれをエクセルに転記・集計する時間がない」
  • 「集計が終わった頃(例:1カ月後)には、経営判断のタイミングが過ぎていた」
  • 「結局、面倒になって記録が止まり、もとの『勘と経験』頼みの経営に戻ってしまう」

この「面倒くさい」という感情こそが、「どんぶり勘定」から脱却できない最大の敵です。

この「記録」と「データ化」のプロセスを、いかに効率化し、継続可能な「習慣」に変えるか。

その答えが「農業DX」にあります。

農業DXとは「楽をする」ための道具である

「農業DX(デジタルトランスフォーメーション)」と聞くと、

「高額なロボットトラクターのことか」

「AIとかドローンとか、難しそうだ」

と、自分たちには関係ない最先端技術の話だと思われるかもしれません。

しかし、本コラムで取り上げるDXは、もっと身近なものです。

DXとは、単なる「デジタル化(IT化)」ではありません。それは、「デジタル技術(データ)を使って、経営や働き方、ビジネスモデルそのものを変革する」ことです。

そして、私たちが目指す「コスト把握」におけるDXとは、

「面倒な『記録』と『データ化』作業を、デジタル技術で徹底的に『楽』にし、継続可能にすること」

に他なりません。

コストを把握する方法としてのDX

  • 「記録」を楽にする:
    これまで「紙の日報」に書いていた作業記録(誰が・どこで・何の作業を・何時間)を、現場のスタッフが「スマートフォンのアプリ」で、数回タップするだけで完了できるようにする。
  • 「データ化」を楽にする(=自動化):
    スマホで記録された瞬間、そのデータは自動的にクラウド(インターネット上)に集計されます。
    事務所での「転記作業」や「集計作業」は「ゼロ」になります。

「データ化の重要性」は、ここにあります。

紙に書かれた「記録」は、集計されなければ「価値が埋もれた情報」です。

DXとは、「記録」を「集計」という面倒なプロセスを経ずに、即座に「生きたデータ(=グラフや分析表)」に変えるための、強力な「コスト把握方法」なのです。

データ活用による未来:リアルタイムな経営判断

では、このDXによって「生きたデータ」がリアルタイムで見られるようになると、皆様の経営はどう変わるのでしょうか。

未来 (1):経営の「精密検査」が毎日できる

第3回で「収支の可視化は"健康診断"だ」と述べました。

DXは、その健康診断(=品目別・圃場別の収支分析)を、「年に一度の決算時」ではなく、「毎日・毎週」リアルタイムで行えるようにします。

「今、この瞬間に、どの圃場が、いくら赤字を掘っているか」が一目瞭然になります。これにより、経営判断(例:テコ入れ、作付け中止)のスピードが劇的に上がります。

未来 (2):価格協議(コストエビデンス)の武器が自動で生成される

第5回で紹介した「買い手との価格協議」。

DXを導入していれば、「A品目について、今期のコストエビデンス(労務費・資材費)をまとめてくれ」と指示すれば、ボタン一つで正確なレポートが出力されます。

もう「なんとなく苦しい」という交渉は終わりです。「データ」という最強の武器を手に、いつでも自信を持って協議のテーブルに着くことができます。

未来 (3):「攻め(付加価値)」の戦略が論理的に決まる

第8回の「付加価値戦略」も、勘や経験だけでは進められません。

「どの品目(データ上、最も利益率が低い)に、テコ入れ(付加価値)すべきか?」

「JGAP認証(=付加価値)の取得・維持には、どれだけの手間(=記録コスト)がかかっているか?」

DXによるデータ化は、攻めの戦略を立案するための、高精度な「地図」の役割を果たします。

結論:「何から始めるか」

「DXの未来は分かった。だが、やはり何から手をつければいいかわからない…」

本コラムの最後の提言は「スモールスタート」です。

いきなり高額な経営管理システムを導入する必要はありません。まずは「気軽にスタートできる」レベルから、「試してみる」ことが重要です。

  • ステップ1:無料アプリを試す
    まずは、スマートフォンで「農業 日報」「生産管理 アプリ」などと検索してみてください。無料あるいは月額数千円で使える安価なアプリがたくさんあります。まずは経営者さまご自身が、一つの圃場、一つの品目だけで試してみてください。
  • ステップ2:目的を「コスト把握」に絞る
    多機能なシステムは不要です。本コラムのゴールである「労務費(作業時間)の記録」と「資材費の記録」。この二つを「楽に」記録できる機能、そして「品目別・圃場別に」集計できる機能。まずはこれに絞ってツールを探してください。
  • ステップ3:ツールではなく「意識」を変える
    最も重要なDXは、経営者である生産者の意識変革です。
    「面倒でも、毎日記録する」
    「集まったデータ(数字)を、必ず見て、経営判断に使う」
    「勘や経験だけでなく、データを根拠に話す」
    という意識を持つこと。それこそが、DXの本当の第一歩です。

【連載の終わりに】

全9回にわたり、食料システム法を背景とした「コスト把握」の重要性についてお話ししてきました。

法律(食料システム法)は、生産者に「合理的な費用」を主張する権利という「追い風」を吹かせてくれました。

しかし、その風を受けて進むための「かじ」を握らなければ、船(=経営)は風に流されるか、座礁するだけです。

その「かじ」こそが、皆様が日々の現場で「記録」し、「データ化」した、経営の羅針盤=「コストエビデンス」に他なりません。

「記録が経営を変える」。

生産者の持続可能で「もうかる」未来は、今日、生産者が残す「一本の記録」から始まります。

ご愛読、誠にありがとうございました。

執筆者情報

株式会社ユニリタ アグリビジネスチーム

株式会社ユニリタ
アグリビジネスチーム

ユニリタのアグリビジネスチームのメンバーが執筆しています。

日々、さまざまな農家さまにお会いしてお聞きするお悩みを解決するべく、農業におけるデータ活用のノウハウや「ベジパレット」の活用法、千葉県に保有している「UNIRITAみらいファーム」での農作業の様子をお伝えしていきます。

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